2008年 08月 26日 ( 1 )   

『母ちゃんと野球』   

2008年 08月 26日

『母ちゃんと野球』

幼い頃に父ちゃんが亡くなり、母ちゃんは再婚もせずにボクを育ててくれた。学歴もなく、手に職もなかった母ちゃんは、個人商店の手伝いみたいな仕事で生計をたてていました。それでも当時住んでいたところは、まだ人情が残っている下町で、なんとか母子二人貧しいながらも暮らしてました。
ですが、娯楽や旅行をする余裕なんかはなく、休日なんかは、母ちゃんの手作りの弁当を持って、近くの河原なんかに遊びに行き、給料をもらった次の日曜日には、クリームパンとコーラを買ってくれたものです。それが、とっても嬉しかった。
そんなある日、母ちゃんが、勤め先からプロ野球のチケットを2枚もらってきた。ボクは、生まれて初めてのプロ野球観戦に興奮し、母ちゃんはいつもより少しだけ豪華な弁当を作ってくれた。
野球場に着き、チケットを見せて入ろうとすると、係員に止められた。母ちゃんがもらってきたチケットは、招待券でなく、優待券だった。チケット売り場で、一人1000円ずつ払わないと入場できないと言われた。
でも、母ちゃんとボクは帰りの電車賃しか持ってなかったので、ボク達は、野球場近くの公園のベンチで弁当を食べて帰った。
電車の中で無言の母ちゃんに、「楽しかったよ!」と言ったら母ちゃんは、「母ちゃんバカでごめんね」と言って涙を少しこぼした。ボクは、母ちゃんにつらい思いをさせた貧乏と無学が、とことん嫌になって、一生懸命に勉強した。

新聞奨学生として大学まで進み、いっぱしの社会人になりました。母ちゃんも喜んでくれました。そんな母ちゃんが、昨年の暮れに亡くなりました。その死ぬ前に一度だけ目を覚まし、思い出したように言いました。
「野球、ごめんね」と言ったのです。ボクは、「楽しかったよ」と言おうとしたけれど、最後まで声になりませんでした。

… あおば出版・親の無償の愛の美しさ。

貧しく、小さくとも些細な幸せがある。辛く、厳しい中にも、光りがある。名もなくとも、華々しくなくとも、美しく、立派な人がいる。
ん~参った。ん~涙が、止まらない。ん~優しくなれた?いや、優しく生きよう。
      久保華図八
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by bagzy | 2008-08-26 10:13